各報道でもご存じだと思うが、
弘南鉄道は11月27日、
大鰐線の2027年度末での運行休止を発表。
つまるところ事実上の廃線が確定した。
詳しい報道内容は、
新聞・テレビ・ネットニュース等を参照されたい。
大鰐線は1970年、
当時運行に携わっていた弘前電気鉄道より弘南鉄道へ譲渡され、
ピーク時の1974年度には年間約390万人の利用者に恵まれた。
しかしその後、
沿線の人口減少や利用者減を受け、
2023年度には27万人にまで大幅に減少。
慢性的な赤字が続いていた。
沿線自治体に該当する弘前市や大鰐町の首長は、
大鰐線廃止に対し「苦渋の決断を尊重」とし、
一定の理解を示しているようだ。
私としてもこの慢性的な赤字を解消するには、
以前から一筋縄ではいかないものであると認識しており、
廃線はやむを得ないと感じている。
・・・と言うとでも思ったか!?w
今回の大鰐線廃止の報道を受け、
私としては非常に遺憾であり、
弘南鉄道の経営陣に非常に失望している。
まず、なぜ私がそう感じているのかを、
項目ごとに述べようと思う。
①沿線人口・環境に比較的まだ恵まれている
ピーク時の1970年代より、
沿線人口は減少しているとはいえ、
現在も弘前市内(特に千年~中央弘前)においては、
住宅密集地のど真ん中を走っていることに変わりはないほか、
駅名を見れば分かるように、
弘前高校、弘前学院大学、聖愛中高、義塾高校、
その他、弘前大学、柴田学園高校、弘前実業高校と、
沿線にはこれほど多数の高校・大学が点在している。
地方鉄道でもこのようなケースは珍しく、
いかにも元県庁所在地である、
学園都市・弘前らしい路線であると言える。
これほど沿線に高校・大学が集中しており、
沿線の環境にまだ恵まれているにも関わらず、
利用者が見込めないと判断を下した弘南鉄道経営陣は、
いったいどういう考えを持っているのか?
同じ青森県内を走る青い森鉄道の青森市内区間沿線にも、
多数高校が集中しているが、
大鰐線にはそれと同等もしくはそれ以上の学校数が存在する。
青い森鉄道の青森市内区間においては、
青い森鉄道が創意工夫を凝らし、
学生利用促進に全力を尽くしているのは、
あの2両のすし詰め状態の列車に乗ってみれば、
言うまでもない。
これほど沿線の環境が青い森鉄道の青森市内区間と、
境遇が似ているにも関わらず、
なぜ大鰐線ではそのような効果が発揮されないのか?
そもそも地方鉄道というのは、
学生利用が大半を占める路線が多く、
高校・大学という存在はいわゆるダイヤモンド。
いかに学生に鉄道を利用してもらうかが、
“鉄路の生死”を分けるものだ。
弘南鉄道では、
定期券購入に補助を出すなどの施策を講じているが、
利用状況を鑑みれば、
まだまだ効果が存分に生かし切れていないように感じる。
②ターミナル駅である弘前駅と接続していない
これについては以前、
当ブログでも言及しているものであるが、
やはり利用者数が多いターミナル駅である、
弘前駅と接続していない現状では、
利用者数の維持もしくは増加は極めて難しい。
弘南線に関しては、
弘前駅と接続しているため、
一定の利用者数を確保しているものの、
大鰐線は発着駅である中央弘前駅が、
弘前駅と直線距離で少なくとも1キロ程度離れている。
現状、弘南バスでは8分の所要時間を要するため、
ターミナル駅と距離があるのが難点だ。
ただでさえ津軽鉄道においても、
人口約5万都市の玄関口である、
五能線の五所川原駅と接続しているにも関わらず、
経営状況は厳しいのが現状であることから、
大鰐線に至ってはそれ以上に過酷な環境に置かれていることに、
経営陣はどれほど自覚しているのだろうか?
奥羽本線の大鰐温泉駅と接続しているとはいえ、
駅が所在する大鰐町の人口は2022年時点で9,000人弱。
五所川原市と規模が全く異なる。
後述するが、
大鰐線はターミナル駅である弘前駅との乗り入れが実現しない限り、
利用者数維持・増加は期待できない。
③沿線自治体から多額の補助を受けている
ニュースでも度々報じられているが、
今日まで弘南鉄道は、
県や沿線自治体から多額の補助を受けている。
2024年3月には県の補正予算案で、
4802万円を運行支援として、
11月には国の改善指示を受け、
3400万円が安全対策費として充てられることが決定したが、
これらは沿線自治体がすべて全額負担するものである。
弘前市の首長をはじめ、
大鰐線には「もっと経営努力が出来る」とし、
維持に前向きの姿勢を表していたほか、
これまで多額の補助が、
弘南鉄道に降りているにもかかわらず、
突如として廃線の方針を打ち出したことは、
言ってしまえば「恩を仇で返す」ような行為とみなされても、
致し方ないのではないだろうか?
沿線自治体が捻出した補助費用はそもそも、
住民の税金から徴収したもの。
ここまで支援を続けられたのは、
大鰐線の経営状況が良くなってほしいという、
地元住民による思いがあってこそだ。
にもかかわらず、
このタイミングで廃線の方針を打ち出されたら、
地元住民をはじめ、
誰が納得するだろうか?
あまりにもお粗末な対応で話にならない。
④抜本的な体制の見直しが行われなかった
大鰐線は2013年に一度、
廃線の方針を打ち出している。
しかし、沿線自治体や利用者から、
廃線を撤回する声が相次ぎ、
弘南鉄道は大鰐線の廃線宣言を撤回した。
さて、あれから10年が経過したが、
果たしてどこまでテコ入れがなされたのだろうか?
イベントやパークアンドライドといった施策は、
この期間に大々的に行われ、
その点については評価は出来る。
しかし、これらの施策は「抜本的」とは言い難い。
そもそも抜本的な施策というのは、
鉄道設備やルートの見直しといったレベルの話。
国内のみならず海外の地方鉄道においても、
試行錯誤してやっと経営状況が回復したというケースは多数存在する。
例えば、旧富山ライトレール(富山地方鉄道)では、
もともとJRが運営しており気動車を運行させていたが、
高額な維持費と利用減により廃線の方針が打ち出された。
が、それでは沿線住民の利便が低下するとし、
JRから路線を経営譲渡。
その後、維持費の軽いライトレール車両を導入し、
何とか廃線から免れた。
その他、気仙沼線や日田彦山線の一部区間では、
BRTによる運行がされている。
ここでは、線路を撤去するものの、
BRT専用道路を整備することで、
定時性、速達性に関しては、
鉄道と遜色ない程度の利便性となっている。
大鰐線の状況を鑑みれば、
後者のBRTが最も効果的なのではと、
私は以前から思っており、
弘前市にも提案を出した次第である。
先述のように、
大鰐線はターミナル駅である弘前駅に乗り入れていない時点で、
抜本的な利用者数維持・増加は困難である。
鉄道設備の解体など、
初期費用は大幅なものにはなるものの、
ランニングコストを鑑みれば、
BRTのほうがはるかに運営しやすい。
このような手法を取ることで、
鉄路は廃止となれど、
同じルートでBRTを運行すれば、
沿線住民の利便は維持が可能。
加えて、BRT専用道路を弘前駅まで整備することで、
これまで中央弘前駅止まりであった大鰐線が、
弘前駅まで接続することができる。
BRTが大鰐線にとってマストとははっきりと言いきれないが、
このようなレベルまで議論を進めることはできなかったのだろうか?
また、経営陣及び社長は県外の地方鉄道の現地視察に、
何回行かれたのどうか?
人口減で厳しい状況に置かれている路線は数多く存在するが、
その中でも現状を維持しようと、
抜本的な見直しにより試行錯誤している路線は複数ある。
私は以前IT企業に勤めていたが、
進んでいる会社の社長は、
社長室の机に座っている時間はごく僅か。
下手すると1週間ずっと出張・視察ということもザラにあった。
上記のようなことまでしなくてもいいが、
そもそも会社のトップというのは、
自分の机に座っているだけが仕事ではない。
県外に出張・視察に行き、
良いと思った部分は従業員に反対されようが、
積極的に取り入れてみる、
これがトップの仕事だ。
果たして、弘南鉄道の経営陣はそこまでの努力をしたのだろうか?
10年という月日の中で生み出された案は、
ハッキリ言ってこれだけでは話にならない。
と、このようにまだまだ改善の余地があるにも関わらず、
廃線の方針を打ち出したのは、
経営者として非常に情けないうえ、
無責任かつ沿線自治体及び利用者への冒涜であると感じた次第である。
コメント