昨日の予告通り、
実際にJR貨物が並行在来線事業者に支払っている線路使用料の割合を試算してみたいと思います。
尚、前回同様、梅原氏の記事を参考にしていきますが、
実はこちらではお隣IGRいわて銀河鉄道を例に線路使用料を試算しているので、
今回はそれにのっとって青い森鉄道の場合を試算する形となります。
計算がかなり多くなっておりますので覚悟してください()
前回述べたように、
貨物列車が走行しなければ回避できる経費のみをJR貨物が払うことで同社の負担を軽くする、
アボイダブルコストルール(回避可能経費)を線路使用料算出にあたっては導入しています。
しかし、整備新幹線開業後は並行在来線がJR旅客から切り離されたことで、
新たに第三セクター鉄道を立ち上げた並行在来線事業者が登場するものの、
JR旅客と比べ経営に余裕がないことから、
JR貨物を経由してその並行在来線事業者を支援するため貨物調整金が導入されています。
そしてJR貨物は貨物調整金コミコミの線路使用料を並行在来線事業者に対し支払っています。
ここまでが前回の復習ですね。
では実際に前回も掲載した以下の表を参考に線路使用料を試算してみましょう。
費目 | 費目の内訳 | ||
人件費、業務費 | 修繕費 | ||
線路保存費 | 旅客列車と貨物列車との全ての修繕費の比率 | 固定費:旅客列車と貨物列車との列車キロの比率 | 変動費:旅客列車と貨物列車との換算車両キロの比率 |
電路保存費 | 同上 | トロリ線以外:旅客列車と貨物列車との列車キロの比率 | トロリ線:旅客列車と貨物列車とのパンタグラフキロの比率 |
保守管理費 | 同上 | ー | ー |
輸送管理費 | 同上 | ー | ー |
一般管理費 | 同上 | ー | ー |
資本経費 | 一部をJR貨物が負担 |
◆上記の費目すべてを合計した後、1%分のインセンティブを加える。
参考:梅原 淳(2017)JR貨物の将来を左右する「線路使用料」の実態<https://toyokeizai.net/articles/-/184492>
梅原氏の記事では線路保存費及び電路保存費の2費目を試算していますが、
それ以降はデータが公に公開されていないと思われるため、
今回は梅原氏と同様、
青い森鉄道の場合における線路保存費及び電路保存費のみを試算することにします。
ではまず、上表に載っている専門用語から簡単に解説↓
- 列車キロ:列車本数×走行キロ
- 車両キロ:列車本数×連結車両数×走行キロ(=列車キロ×連結車両数)
- 換算車両キロ:車両キロ×積車状態の車両総トン数×10分の1(0.1)
- パンタグラフキロ:列車キロ×1列車当たりのパンタグラフ数
※いずれも年間データ
このようになります。
例えば列車本数が10本で走行キロが100キロであれば列車キロは1000キロになり、
連結している車両が2両であれば2倍になるので車両キロは2000キロになります。
そして、青い森鉄道をはじめ全国すべての鉄道事業者の列車キロ及び車両キロのデータは便利なことに、
「鉄道:鉄道統計年報 – 国土交通省<http://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk6_000032.html>の2.作業量(4)営業キロ及び走行キロ表」
に掲載されています。
現在のところ最新版は平成29年度となっていますが、
この資料を使うことによってJR貨物の負担比率が判明してきます。
ただし各線区における貨物列車の列車キロ及び車両キロは載っていません。
なのでこの部分は梅原氏の記事を参考にしていきます。
換算車両キロについては、
前提として積車状態の車両総トン数を求めなければなりません。
青い森鉄道の場合は701系、703系、
そして快速しもきたのキハ100系などの各々の車両総トン数が必要になってくるかと思いきや、
調べたところどうやら実務上では10t車を1両とみなす、
つまり重量10 tにつき「換算1両」として数えるとのことだそうで、
いちいち車種ごとの重量を出す必要はないようです。
また、乗客20人につき1tプラスすることになっています。
一方、乗客や荷貨物を乗せた場合の積車換算両数のほかにも、
乗客や荷貨物を乗せていない場合の空車換算両数という項目がありますが・・・
つまるところ換算車両キロについてはこのように膨大な計算量が必要になってくるため、
ここで終わらせる自信がありません()
なのでここも梅原氏のIGRのデータを参考にしていきます。
では、鉄道統計年報に載っている青い森鉄道の数値をもとに、
まずは列車キロから求めてみましょう。
列車キロはExcel表の列の”AD”に書かれており、
それによると184万8000㎞になっていますね。
車両キロは”AO“に書かれており、
373万9000㎞となっています。
ということは1本当たりの連結車両数は、
184万8000㎞/373万9000㎞=2.02両
となります。
確かに青い森鉄道はほとんど2両編成で走っているので、
ほぼピッタリ収まりました。
まあ、舐めプで快速しもきたが1両で来ることもありますがw
尚、小数点第2位まで求めると2をわずかに超えていますが、
恐らくこれは繁忙期に快速しもきた(大湊~八戸間)が3両に増強されているからだと思われます。
では続いてJR貨物の場合。
こちらは鉄道統計年報に載っていないので、
梅原氏のIGRのケースをもとに算出します。
梅原氏は2014年度のIGRを走る貨物列車の列車キロは105万6000km、
車両キロは2217万6000kmと算出しています(貨物列車1本当たりの車両数は21両と考える)。
そしてIGRと青い森鉄道は貨物列車が直通して走っているので、
ほぼ同じ本数と予測できます。
一方、IGRの営業キロは82.0kmなのに対し、
青い森鉄道は121.9㎞となります。
なので単純計算でいくと青い森鉄道はIGRの1.48658853倍の営業キロを擁していることになります。
ということでIGRをベースとして上記の数値を考慮すると、
青い森鉄道を走る貨物列車の列車キロは約157万0000km、
これに21をかけて車両キロは約3297万0000㎞と推測されます。
では、JR貨物の負担比率はどうなっているのかというと、
列車キロは(旅客184万8000㎞+貨物約157万0000km)/貨物約157万0000km=45.9%
車両キロは(旅客373万9000㎞+貨物約3297万0000㎞)/貨物約3297万0000㎞=89.8%
となりました。
つまり、青い森鉄道ではJR貨物の負担比率が列車キロでは45.9%なのに対し、
車両キロでは89.8%とかなりのギャップがあることが判明しました。
次に換算車両キロです。
梅原氏によると2014年度のIGRの積車換算両数は4112万1000換算キロですが、
貨物列車は25億0588万8000換算キロとなり、
JR貨物の負担比率は98.4%となります。
一方、換算車両キロは先述の通り乗客や荷貨物を載せた積車換算両数を用いるため、
「鉄道:鉄道統計年報 – 国土交通省<http://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk6_000032.html>の1.運輸(1)-1 運輸成績表(数量)」
のIGRと青い森鉄道の輸送人員合計の割合を使っていくこととします。
いずれも使っている車両はもともとJRからの同系列の譲渡車であるため、
比較対象になり得ることを鑑みて算出します。
平成29年度のIGRの輸送人員合計は523万5千人、
一方青い森鉄道は456万0千人です。
割合としては青い森鉄道はIGRの87.1%の輸送人員なので、
旅客4112万1000換算キロ×0.871=3581万6319換算キロ
貨物は営業キロの割合を考慮すると、
貨物25億0588万8000換算キロ×0.871=37億2522万4358換算キロ
となりました。
よってJR貨物の負担比率は驚異的の99.0%となります。
あれ、そもそもJR貨物にとってアボイダブルコストルールは有利になるのだから、
これだけ負担するのはおかしくないか?
と思ってしまいますが、
実はこれにはからくりがありますので続きを次回ご紹介します。
最後にパンタグラフキロ。
青い森鉄道はほとんどが走るんですこと701系で占領されているので、
パンタグラフはおおむね2基とみなしましょう。
貨物列車はお馴染みのEH500形電気機関車には1基しかないので変わりません。
先ほどの式をもとに出してみると、
青い森鉄道は184万8000㎞×2基=369万6000パンタグラフキロ
対し貨物列車は約157万0000km×1基=約157万0000パンタグラフキロとなり、
JR貨物の負担比率は(369万6000パンタグラフキロ+約157万0000パンタグラフキロ)/約157万0000パンタグラフキロ=29.8%
何とこちらは29.8%しかなく、
列車キロのときよりも更にJR貨物の負担比率が少ないことが分かります。
ということで今回はJR貨物の負担比率を試算してみましたがいかがでしたでしょか?
やはり計算が複雑なだけあって分かりづらい内容となってしまいました。
かなり長くなったので続きは次回お伝えします。
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